英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 その直後、ふいに腕を掴まれたと思うと、懐に抱き込まれた。心地よい熱と、彼の匂いに包まれる。耳元で、高ぶる感情を押し込めたような、掠れた声がした。

「ありがとう。……どうしてだろう。君の言葉は、いつも俺の心に響く」

(ルシウス様……)

 黙ったまま、腕の中でただ温もりに酔う。どうしてか、目頭が熱くなった。
 硬くて温かい胸元にピタリと寄せた頬から、彼の鼓動が伝わってくる。今は少し速い拍子を刻む、ルシウス様らしい力強い音だ。

「……っ!」

 幸せな気分にずっと浸っていたかったのに、突然の衝撃に襲われた。夜の庭園で寄り添い、キスをしていたルシウス様とイレーヌ姫の姿が突如、脳裏によみがえったのだ。
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