英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 ――ゴホン! ンッ、ンッ!

 うっとりと見つめ合い、ふたりだけの世界に浸っていると、不快な咳払いに水を差された。その場に意識を戻すや否や、最初に発言をしていた黒髭の男が無神経な大声でがなり立ててくる。

「なにを勝手に盛り上がっている。前衛的な話し合いをするかと思えば、甥が色ボケしているとは情けない! 姉上も、黙っていないでなにかおっしゃってはどうか!」

 ルシウス様を甥と呼んだということは、黒髭の男は彼の叔父であり、そしてグレイス様の弟に当たる人らしい。

 気の収まらない様子の黒髭――家系図を頭の中で紐解いたところ、名はノートン、爵位は伯爵――は、短気で自己中心的な気質を隠さずに、ぐちぐちとぼやきはじめた。

「嫁の尻を追いかけているようでは先が知れているぞ、ルシウス。おまえの父親セリオンも、卑しい出自なだけあって融通の利かない男だった。我らの意見には耳を貸さず、信条に従ったあげくの早死にだ」
< 380 / 398 >

この作品をシェア

pagetop