英雄の妻に転生しましたが、離縁されるようです ~旦那様、悪妻の私を愛さないでください~
 思わぬ不意打ちにゴホゴホと激しくむせ返った。子どもが急になにを言いだすのか。

「ち、違うのよ、けして夜這いとかではなくて……!」
「どうでもいいが、起きたのなら顔を洗え。枕元の台に洗面用の水があるから」
「あ、ありがとう。えっと……」

 いいかげんに名前を呼びたいと、ちらちらと視線を送る。するとへの字になっていた少年の唇が、仕方ないなというふうにもごもごと動いた。

「不便だからな。名を呼ぶことを特別に許す。ロキでいいぞ」
「それじゃあ……ロキ君?」
「ん……。以前のおまえは鼻持ちならなかったが、今のおまえの匂いは嫌いじゃない。名を呼ばれても不快じゃないのは不思議だ」

 それはよかったと胸を撫で下ろす。タオルを持った彼がそばにきて、スンスンと鼻を寄せてきたので、つい頭を撫でたい衝動に駆られた。本当に猫みたいな子だ。
< 63 / 398 >

この作品をシェア

pagetop