義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます
兄は楽しそうに、父と相談を始めた。
いったい、何考えてるの?
駄目だ、この人もポジティブな人種だった。
私は最後の綱として、母を見つめる。
母は優しい笑みを浮かべながら、私の手を握りしめてきた。
「嬉しい! 私、可愛い男の子も欲しかったの。
咲夜と並べば、美男兄弟よねえ?」
きらきらとした瞳で見つめられ、私は愕然とする。
なぜそういう発想になるのだろう。
ダメだ、ここにはポジティブ人間しか生息していなかった。
ガクッと肩を落とす私の横で、兄が楽しそうに声をあげる。
「俺、いい名前思いついた」
どんどん話が進んでいってしまう。
私は一言も賛成してないんですけど? と兄を睨みつける。
そんな視線など、皆に軽く無視されてしまった。
「ほう、どんな?」
「なに、なに? 可愛い名前がいいな」
父と母が興味津々な瞳を兄に向ける。
「南、優ってどう? 俺、方位で一番好きなのが南なのよ。
それに、唯は優しいから優ってことで」
兄が私に向かって、どうだ、という表情を向けてくる。
いや、どうもこうもないよ。
と私は一人、心の中で泣いていた。
「いいんじゃないか? 唯に似合ってる」
「可愛くていいじゃない、気に入った」
父も母も大絶賛だ。
よかった……のか?
もう、どうにでもして。
どんどん進行していく話についていくことができず、私は独り蚊帳の外。
「じゃあ、これから唯の男バージョンは南優ね。よろしくな、優」
兄が私に手を差し出す。
「う、うん。よろしく」
すっかり流されはじめた私は、その手をつい握ってしまう。
すると突然、父と母が上から覆いかぶさるように、私と兄を一緒にギュッと抱きしめてきた。
家族四人むぎゅっ状態。
「これから家族で力を合わせ、頑張ろう! 唯と優を支えるぞっ」
「ええ、もちろんよ」
張り切る両親に、はじめはあきれたけれど、
だんだんとその裏にある愛情が伝わってきた。
気づけば、私の頬も自然と緩む。
この人たちはめちゃくちゃだけど、ちゃんといつも私のことを愛してくれている。
それは確かな真実。
いいなあ、家族って。
ええい! もうこうなったら腹を括るしかない。と気合を入れる。
すると、兄が私の耳元で囁いた。
「ああ、唯は俺が守る」
ドキッとした。
その声は、いつものふざけている感じじゃなくて、本気を感じたから。
私はそっと兄に視線を向ける。
……ちょうどそのとき、目が合った。
真剣な眼差しから目を逸らせない。
顔が熱くなるのを感じて、あわてて顔を背けた。