義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます
「おはよう、咲夜。……と、誰?」
ふいに風が揺れ、視界の端に人影が現れた。
そこに立っていたのは、兄の親友・流斗さんだった。
じっと私の顔を見つめ、不思議そうに首をかしげている。
「あ、えーと……」
そうか、もう合流地点に着いてたんだ。
胸が一気に騒ぎ出し、注がれる視線にどう返せばいいのか分からない。
私はまごついた。
すると兄が、いつもの調子で助け舟を出してくれる。
「流斗、おはよう。こいつは俺の従弟なんだ」
そうだった。昨日の家族会議でそう決めたんだ。
「へえ、こんな可愛い従弟がいたんだ」
流斗さんが私を見つめながら、すっと距離を詰めてくる。
「おっと、こいつ人見知りだから。あんまり近づくなよ」
慌てて割って入った兄が、私を背中にかばった。
「ね、その子、唯さんに似てるね?」
にこやかに言いながら、流斗さんは兄の肩越しに私を観察してくる。
「あ……ああ、そうだな。唯とも従弟だからなあ。似てるかもなあ」
兄はごまかすように笑い、私の肩をぐっと引き寄せた。
「可愛いだろ? こいつ男なのに女みたいな顔してるんだよな。だから余計に唯に似てるのかもな」
フォローのつもりなのに、かえって怪しく聞こえる。
流斗さんがさらに顔を寄せてきた。
整った顔が目の前に迫り、思わず息が止まる。
「うん、ほんと唯さんそっくり……可愛いね」
胸が大きく跳ね、顔が熱くなる。
流斗さんはよく私を褒めてくれる。嬉しいけれど、やっぱり慣れない。
「おい、男くどいてどうすんだよ?」
兄は私を守るように、さっと引き離した。
「こいつ、早く連れてかなきゃいけないから、先行くぞ」
そう言うと、私の手を取って走り出す。
少し強引で、でもあたたかなその感触に、胸がふわっと高鳴った。
振り返ると、流斗さんが穏やかな笑顔で手を振っていた。
さっきまでの鋭い視線は消え、そこにはいつもの優しい彼がいた。