義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます
「あ、あいつ、鋭いな……」
肩で息をしながら、兄がぼそりとつぶやいた。
「やあ、いらっしゃい」
優しい笑みを浮かべて、父がゆっくりと近づいてくる。
家で見るいつもののほほんとした姿とは違い、どこかビシッと締まって見えるのは、ここが理事長室だからだろうか。
私たちは父に会うため、理事長室までやってきた。
大きな窓際には立派な机があり、中央にはテーブルとソファ。壁際にはびっしりと本が並んでいる。
落ち着いた雰囲気に包まれたその部屋は、仕事場らしい威厳を漂わせていた。
何度か来たことはあるけれど……やっぱり緊張する。
「理事長室」というだけで、自然と背筋が伸びる。
ほわんとした普段の父も素敵だけど、スーツをびしっと着こなす父もまた格好いい。
「父さん、準備のほうはどう?」
兄の問いに、父は穏やかに頷いた。
「ああ。南優はもう転校生として登録済みだよ。優は心配せずに、学校生活を楽しみなさい」
父は私の肩に手を置き、励ますように微笑んでくれる。
頼りになる父を持って、幸せだなあ……と噛みしめる。
けれど、それでも不安は消えない。
「それはいいけど……。私が優でいる間は、唯は欠席ってことになるんだよね? 怪しまれないかな……」
「大丈夫。唯のほうは『体調が不安定』ってことにしておくよ」
父はさらりと言うけれど、本当にそれで大丈夫なのかな。
ますます不安になってしまう。