義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます
教室の前まで来ると、ようやく兄が手を離してくれた。
強く握られていた手のひらには、じんわりと熱が残っている。
兄はその場に立ち止まり、私をまっすぐに見つめた。
……何かを言いたげな沈黙。
その真剣な眼差しに、思わず視線を逸らす。
「じゃあ、またお昼に来るから」
「別に、そんな毎日来なくていいよ」
「いいから」
有無を言わせない一言に、口を閉じるしかなかった。
反論の余地なんて与えてくれない。
「え、咲夜さん? なんでここに?」
その声に振り返ると、蘭が驚いたように目を丸くして立っていた。
ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、蘭が私たちのほうへ駆け寄ってくる。
その瞳は輝いている。きっと兄に見惚れているのだろう。
「珍しいですね! 朝から咲夜さんが教室まで来るなんて」
蘭が嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「ああ、羽鳥さんか。おはよう。いつも唯のこと、ありがとうな」
兄が柔らかく微笑むと、蘭の頬がみるみる赤く染まった。
「い、いえ……そんな……」
小さく頷きながらも、蘭はぽーっと兄を見上げていた。
兄はそんな様子に気づいているのかいないのか――私に軽く笑いかけると、背を向けて歩き出す。
蘭はぼんやりとその背中を目で追いながら、うっとりとした表情を浮かべている。
「……ほら、行くよ」
私は、夢見心地な蘭の腕を引っぱって、教室の中へと連れていった。