義兄に恋してたら、男になっちゃった!? こじ恋はじめます
「……彼女の兄がいる前で、堂々と手をつなぐなよ」
兄が前方を見つめたまま、ぼそっとつぶやいた。
「すみません。唯さんが可愛いから、つい」
名残惜しそうに私の手を離した流斗さん。
急に消えたぬくもりに、妙な寂しさを覚える。
「あ、そうだ。もし唯さんが嫌でなければ、今度の休みに僕とデートしませんか?」
「え!」
いきなりの誘いに、胸がどきんと鳴って、目を丸くする。
「……嫌、ですか?」
流斗さんが不安そうに見つめる。
その視線に胸がざわめいた。
「いえ! ちょっとびっくりして……いいですよ、今度の休みに」
照れながら返事をすると、兄が唐突に叫んだ。
「あ! 今度の休み、父さんがどこか行こうって言ってたな!」
あまりにも突然で大げさな声に、私は眉をひそめる。
「私、そんな話聞いてないけど」
「父さんは、唯と、行きたがってたぞ」
なぜか“唯と”の部分だけ、妙に力がこもっていた。
その不自然な言い回しに、ふと違和感を覚える。
「じゃあ今晩、お父さんに聞いてみるよ」
冷静にそう返すと、兄の顔がぴくりと引きつった。
「あ、ああ……」
しゅん、と肩を落とす。
……ほんと、なんなのよ。
気を取り直して、私は流斗さんに向き直り、笑顔を向けた。
「お父さんに聞いてみて、もし大丈夫だったらデートってことで」
その言葉に、流斗さんは嬉しそうに微笑み頷く。
「もちろん。何も用事を入れずに待っています」
その輝くような笑顔に、つい見惚れてしまう。
親衛隊の気持ち、ちょっとわかるかも――なんて。
こんな素敵な人が、好きって言ってくれるんだもん。
私は幸せ者なんだ。
……これで、いいんだよね?
だって、兄への想いは、どうせ叶わないんだから。
だけど……
ふと視線を向けると、兄はひどく落ち込んだ様子で、少し前を歩いていた。
その背中が、なぜか気になってしまう。
視線を逸らそうとすれば、胸の奥がちくりと痛む。
気づけば、目で追いかけていた。