【書籍化】幼馴染のエリート外交官にカラダから堕とされそうです
 ふと、脳裏に過りそうになった面影を掻き消すように、残り少ないジョッキを煽った。

 ――ダメダメ! もう、思い出さないって決めたんだから。

「――まぁ、あれだ、楓ちゃん。浮気男よりも、やっぱり、“あいつ”しかいねえってことじゃねえのか?」


 話を聞いていたらしい安叔父さんが、調理場から一番近いカウンター席でひとりになった私を小声で励ましてくれる。昔から口は悪いが人の心の変化にとても敏感で優しい人なのだ――が、私は口に含んだビールを危うく噴き出すところだった。


「……っ⁉」


 あいつ……叔父さんの言いたいことがすぐに分かってしまった。
 掻き消した傍から、引っ張り出すのはやめて欲しい。


「ははっ……一体何のことやら、それより枝豆追加……」
「何って、忘れたわけじゃないだろう? あんなに長い間一緒にいたのによ」


 慌てて話題を逸らそうとしたが、情に熱い叔父さんには伝わらない。むしろ、記憶にスコップを入れ、掘り起こそうとしてくる。おかげで空のお皿を持った私の手は、浮いたままとなった。


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