行き倒れ騎士を助けた伯爵令嬢は婚約者と未来の夫に挟まれる
(だめだ、アリシアを助けたいのはやまやまだが、俺じゃない。助けるのはフレデリックじゃなきゃだめだ。耐えてくれよ、俺の理性)

「アリシア、すぐに戻る。お願いだら今は堪えてくれ」

 そう言ってその場から離れようとするフレンの裾を、アリシアはさっきよりも強く引っ張る。そのせいでフレンは体が傾き、アリシアの上に覆いかぶさってしまう。フレンの体がアリシアに触れると、アリシアは体を震わせて悩まし気な声を出した。

「あっ、はぁっ、フレン、様……体が、おかしいの、お願い、助、けて……」

 顔にかかるアリシアの吐息にフレンは頭がおかしくなりそうだ。今ここで、自分がアリシアを楽にしてあげることもできる。自分は未来の夫だ、何も問題はない。問題はないが、自分がそうするのはやはり違う気がしてならないのだ。
 理性をフル回転させてなんとか耐えているフレンを、アリシアは切羽詰まったような苦しそうな顔で見つめ、何度も吐息を漏らす。潤んだ瞳、赤らんだ顔は煽情的で今にもフレンはアリシアに口づけをしてしまいたくなる。

(だめだ、耐えろ、耐えるんだ)

 そう思いながらも、なぜかフレンの顔はアリシアに徐々に近づいている。もう唇と唇が触れてしまうのではないかというほどの距離に迫ったその時。

「……リシア!アリシア!どこにいるんだアリシア!」

 廊下でアリシアを呼ぶフレデリックの声がする。ハッとして、フレデリックはアリシアから離れ、ありったけの大声を出した。

「フレデリック!ここだ!」

 フレンが叫ぶと、廊下を走って来る音がする。そしてバアン!とドアが大きな音を立てて開き、肩で息をするフレデリックの姿があった。

「アリシア!」

 フレンがベッドから離れると、フレデリックはアリシアの元へ駆け寄った。

「お前を呼びに行こうとしたんだが、間に合ってよかった」
「メリッサから話を聞いた。アリシア、大丈夫か」
「フレデリ、ック、様……助け、て」

 煽情的な姿で助けを求めるアリシアを見て、フレデリックは血が全身を駆け巡るのを感じる。

「お前の手でアリシアを楽にしてやってくれ。これは俺のやることじゃない、お前がすることだ。俺は部屋の外で見張ってる」

 フレンはフレデリックにそう言うと、一度も振り返らずに部屋から出てドアを静かに閉めた。


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