明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
私は静かにその人の前に座った。

几帳の向こうからは、落ち着いた空気と軍服の気配が伝わってくる。

「この度は息子の見合いに来て頂いて、ありがとうございます。」

相手の方のお父様が、満面の笑みで挨拶をした。

「こちらこそ、娘をお見合い相手に選んでくださり、ありがとうございます。」

父もにこやかに頭を下げる。

形式通りの言葉が交わされるあいだ、私の胸は張り裂けそうだった。

――ここで決まってしまう。

そう思うだけで、指先が震える。

意を決して、私は声を上げた。

「……お待ちください。」

場の空気が一瞬にして張り詰める。

母が慌ててこちらを振り向いた。

「雪乃?」

私は一生懸命に言葉を選び、絞り出した。

「このお見合い……どうか、なかったことにしていただきたいのです。」

静まり返る座敷。

父も、相手方の父も、息を呑んでいた。
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