明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
母の手前、詳しい話などできない。

それでも、私は思い切って言葉を口にした。

「……また、お会いできてうれしいです。」

桐島中尉はわずかに目を細め、私に向かって微笑んだ。

「先日のお着物は、もう出来上がりましたか?」

「え、ええ……」

とっさに答えた声が少し上ずる。

「本日は母の着物をお願いしに。」

「そうでしたか。」

桐島中尉はあくまで穏やかに頷く。

それだけの会話。

けれど、母の前で交わされるにはあまりにも近すぎる視線に、胸が苦しくなる。

どうしよう……。母に気づかれてしまう。

私は視線を落とし、手元の反物をいじるふりをした。

心臓が高鳴る音が聞こえてしまうのではないかと、不安でたまらない。

けれど同時に――その声を聞けただけで、心の奥が温かく満たされていくのを感じていた。
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