明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
すると運の悪いことに、母に気づかれてしまった。

「あら、この方は?」

「ええっと……」

どう答えたらいいのか迷う私を見て、女将さんがすかさず助け舟を出した。

「桐島中尉ですよ。」

「まあ、あなたが桐島中尉なの?」

母の顔がぱっと明るくなる。

「主人からお話は聞いておりますのよ。とてもお優しい方だと。」

桐島中尉は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべた。

「それは……嬉しいお言葉です。」

母は満足げに頷き、志郎の顔をまじまじと見つめる。

私は隣で胸がいっぱいになっていた。

父が話したのは、あの日のこと。

子供を抱き上げ、優しく声を掛けていた姿を、父も見ていたのだ。

――父も母も、この人を“良い方”だと認めている。

それなのに、私はどうしてこんなに恥ずかしくて、目を合わせられないのだろう。

頬が熱くなるのを隠すように、私は視線を落とした。

それでも、横に立つ桐島中尉の気配は、はっきりと伝わってきていた。
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