明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「では参りましょう、雪乃。」

母に促されて立ち上がると、桐島中尉もすっと腰を上げた。

「お荷物をお持ちします。」

そう言って、私の買い物袋に手を伸ばす。

「えっ……あの、大丈夫です。」

慌てて断ろうとする私に、彼は柔らかく微笑んだ。

「そう言わずに。」

その言葉は何気ないものなのに、優しい声音に胸が震える。

「今日はお買い物の日だったんですね。」

にこっと笑い、当然のように荷物を持ってしまう。

一瞬でも目を逸らしたくない。

それなのに、視線を合わせ続けるのが恥ずかしくて、頬が熱くなる。

――ああ、どうして。

ただ荷物を持ってくれただけなのに、これほど心を奪われてしまうなんて。

母の隣にいるのに、二人だけの世界に取り残されたようで。

私は結局、その笑顔を見ずにはいられない。
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