明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
呉服屋を出た途端、ぽつぽつと小雨が降り出した。

「あら、雨が。」

母が慌てて暖簾の中へ戻ろうとする。

私も後に続こうとしたその時、不意に腕を掴まれた。

「待ってください。」

振り返ると、桐島中尉の手が私の手首をしっかりと捉えていた。

心臓が跳ねる。

彼はためらうことなく、羽織っていた軍服をサッと脱ぎ、私の肩へ掛けた。

「これを羽織って。」

「えっ……そんな、できません。」

思わず拒もうとすると、彼は強い口調で言い切った。

「いいから、早く。」

その声音に逆らえず、私はされるままに軍服を受け入れた。

まだ彼の体温が残る布地が肩に触れた瞬間、胸が熱くなる。

周囲の雨音も街のざわめきも消え、ただ彼の声だけが耳に残った。

――どうして。

軍人の誇りである軍服を、こんな私に。

その意味を考えるほど、鼓動が早くなるのを止められない。
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