明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
やがて小雨は本降りに変わり、私たちは慌てて暖簾の中へと身を隠した。

外のざわめきが雨音にかき消され、店先には静かな空気が満ちる。

「寒くはないですか?」

桐島中尉が心配そうに声を掛けてくる。

「いいえ。これがあるので。」

肩に掛けられた軍服をそっと握りしめた。

まだ温もりが残っていて、かすかに彼の匂いがする。

甘く、安心するような香りに包まれ、胸の鼓動が早くなる。

「桐島中尉こそ、寒くはないですか?」

勇気を出して問い返すと、彼はにこっと微笑んだ。

「大丈夫です。寒いのには慣れていますから。」

その笑顔に、思わず息を呑む。

軍人らしい強さと、優しさが同居した表情。

視線が絡んだまま、離せなくなった。

――もっと知りたい。この人のことを。

そう願う気持ちが胸の奥で膨らんでいくのを、私はどうすることもできない。
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