明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「……ありがとうございます。」

思わず口にした言葉は、かすかに震えていた。

私は桐島中尉を見上げる。

その瞳はまっすぐに私を捉え、逃げ場を与えてくれない。

けれど、不思議と怖くはなかった。

彼もまた、私を見つめ返していた。

深い眼差しに包まれ、呼吸を忘れる。

まるで時間が止まったかのようだった。

雨音だけが静かに響く。

肩に掛けられた軍服はまだ温かく、彼の匂いが心を揺らす。

胸が熱く、切なく、どうしようもなく彼に惹かれていく。

――どうして、こんなに。

まだ数えるほどしか言葉を交わしていないのに。

この人を知りたい、この人の隣にいたいと、強く願ってしまう。

「……雪乃さん。」

低く名前を呼ばれただけで、心臓が跳ね上がった。

けれど次の瞬間、母の声が現実へと引き戻す。

「あら、雨が上がったわ。」

私は慌てて視線を逸らし、頬の熱を隠すように俯いた。
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