明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「……ありがとうございます。」

見つめ合ったまま言葉を交わしたその時、母の声が割り込んできた。

「あら、雪乃。それは……」

母の視線は、私の肩に掛けられた軍服へと向けられていた。

桐島中尉はすぐに姿勢を正し、深く一礼する。

「雨に濡れては大変かと思いまして。」

「まあ……貸してくださったの?」

「はい。」

母は目を細めて微笑んだ。

「優しい方ね。」

その一言に、胸が高鳴る。

母まで彼を気に入ったのだ。

それが嬉しくもあり、同時にどうしようもなく恥ずかしい。

外へ出ると、雨雲はすでに切れて、澄んだ青空が広がっていた。

私は肩から軍服を外し、名残惜しさを押し隠して両手で差し出す。

「……ありがとうございました。」

彼は静かに頷き、受け取った。

その瞬間、まだ残っていた温もりが離れていくようで、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
< 27 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop