明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
そして私たちは並んで歩き始めた。

石畳に雨の名残が光り、時折吹く風が頬を撫でていく。

「お使いとは珍しいですね。」

桐島中尉が口を開く。

「……変でしょう? いつもは使用人が来てくれるのに。」

自分でもおかしいと思いながら答えると、彼はふっと笑った。

「いいえ。けれど――そのおかげで、あなたと会えた。」

心臓が大きく跳ねる。

何気ない調子なのに、その言葉は真っ直ぐに胸へ届いた。

「そ、そうですね……」

うまく言葉が出せず、視線を落とす。

けれど、頬の熱は隠せなかった。

足並みをそろえ、静かに歩く。

道端の草花やすれ違う人々の姿さえ、今は景色の一部にしか思えない。

私の意識はただ隣を歩く彼にばかり向いていた。

――一緒に歩くだけで、どうしてこんなにも心が揺れるのだろう。

その答えを知るには、まだ少し勇気が足りない。
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