明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「ご両親を支えるのは、誰にでもできることではありませんから。」

不意の言葉に胸が高鳴る。

――どうしてこんなに優しく見てくれるのだろう。

匙に残る甘さよりも、彼の微笑みの方がずっと心に沁みた。

食べ終わった器を下げようとしたとき、桐島中尉がすっと手を伸ばし、皿を受け取ってくれた。

「美味しかったです。」

「それはよかった。」

短いやりとりのあと、彼は私を見つめる。

「行きますか。」

促されて立ち上がると、自然な仕草で私のバッグを手に取った。

「家はこの近くでしたか?」

「はい。少し歩いたところです。」

並んで歩き出そうとしたその瞬間――温かいものが私の手を包んだ。

「……あっ。」

驚いて顔を上げると、桐島中尉の真剣な眼差しがあった。

「人混みですから。離れないように。」

言葉は穏やかで、口実のように聞こえた。

けれど、指先から伝わる確かな熱は、ただの気遣いではなかった。
< 38 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop