明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
胸が高鳴り、息が詰まる。

本当は振りほどかなくてはいけないのに――その力はどこにも残っていなかった。

私はただ、その手の温もりに引かれるまま歩き出した。

歩きながら、ふいに桐島中尉が口を開いた。

「その……雪乃さんには、許婚の方はいらっしゃるのですか?」

「えっ……」

思わず足を止め、顔が熱くなる。

「まだ……いないです。」

「そうですか。」

彼は安堵したように、帽子の下で微笑んだ。

「よかった。」

その一言に胸がどきんと跳ねる。

冷静な軍人の顔しか知らなかったのに、今は一人の男性として私を見つめている。

「またこうして……会いたいです。」

まっすぐに告げられて、息が詰まった。

「あ、あの……」

うわあ、こういう時、なんて言えばいいの?

頬の熱を隠すように俯くと、彼が少し表情を曇らせた。

「……迷惑でしたか?」

「ううん……」
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