明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「実はね、相手の方もおまえを気に入って下さっているんだ。」

父の言葉に、胸が裂けそうになった。

――もしこのお見合いに行けば、その時点で決まってしまうのではないか。

「もう……避けられないのでしょうか。」

思わず口から漏れた言葉は、懇願にも似ていた。

父は黙って私を見つめ、重く低い声で名を呼んだ。

「……雪乃。」

その視線に射すくめられ、私は俯く。

分かっている。家のため、立場のため。

私ひとりの想いで抗うことはできない。

「……すみません。わがままを言いました。」

声を震わせながら頭を下げ、立ち上がった。

父の表情を確かめることもできず、足を早めてその場を後にする。

廊下を進むうちに視界が滲み、涙が頬を伝った。

部屋に駆け込むと、襖を閉め、膝の上で拳を握りしめる。

――志郎さん。
どうか、この運命を変えてください。

胸の奥で叫びながら、私はただ畳に身を伏せた。
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