明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
翌日、私は志郎さんといつもの茶屋で会った。

けれど胸の奥に重いものがあり、どうしても笑顔が作れなかった。

「雪乃、今日は体調が悪いのか?」

心配そうに顔を覗き込まれ、思わず目を逸らす。

「えっ……いえ……」

「顔色が良くない。」

志郎さんはすぐに私を抱き寄せ、その温もりで支えてくれた。

「無理して体を壊したらダメだ。今日は何もしないから、ゆっくり休んだらどうだ?」

その優しい声に、胸が締めつけられる。

――本当のことを言えたらどんなに楽だろう。

けれど「見合い」の話を、まだ口にする勇気が出なかった。

志郎さんは押し入れから布団を出し、手際よく敷いてくれた。

「さあ、横になりなさい。」

促されるままに身を横たえると、彼は私の隣に座り、そっと髪を撫でた。

「俺は……こうして一緒にいるだけで、幸せだから。」

その一言に、涙がこぼれそうになる。

――どうして、こんなにも優しい人を手放さなければならないの。
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