明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
「いやあ、女学校を卒業して、もうすぐ一年か。直ぐに縁談が決まってよかったな。」

父は盃を手に、上機嫌で笑っていた。

私は胸のざわめきを抑えきれず、思い切って口を開いた。

「あの……お父様。桐島中尉って、覚えていらっしゃいますか。」

「覚えてるよ。」

父はあっさりと答える。

その声音は、あくまで知人の名を思い出しただけといった調子だった。

「縁談が持ち上がっていると……噂を聞いて。」

恐る恐る続けると、父はふっと頷いた。

「だろうね。」

その一言に、胸が跳ねた。

「いやあ、桐島中尉の家も、さぞ喜んでいるだろう。」

上機嫌に言い切る父の姿が、ますます私を混乱させた。

――桐島中尉の家も?
まさか……。

答えを求めようとしても、喉の奥が詰まり、言葉が出てこない。

私はふいと立ち上がり、居間を後にした。

自分の部屋へと戻る足取りは重く、胸の中は不安と期待でぐちゃぐちゃになっていた。
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