明治、一目惚れの軍人に溺愛されて
志郎さんから贈られた指輪を見つめながら、私は畳の上で涙をこぼしていた。

その時、襖が開き、父の声が響く。

「雪乃?」

慌てて涙を拭う。

「……お父様。」

「なぜ泣く?」

不思議そうに覗き込む父に、私はもう隠しきれないと思った。

「お父様……その方は、本当に私を気に入ってくださっているのですか。」

私の問いに、父は一瞬目を見開き、それから嬉しそうに頷いた。

「ああ。何でも、おまえに一目惚れだそうだ。」

「……一目惚れ。」

その言葉が胸に突き刺さる。

思い浮かぶのは、あの呉服屋で出会った志郎さんの瞳。

父はますます上機嫌に続ける。

「娘がそんな風に想われるとは、父親冥利に尽きるな。」

私は唇を震わせながらも、心の奥で静かに思った。

――もし本当にそうなのだとしたら。

その人に、人生を預けてみるのもいいのかもしれない。
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