この恋を運命にするために


 仕事が入ったら仕事を優先すると言われていたので、その言葉もすんなりと受け入れられた。


「はい、行ってらっしゃい」
「ごめんね、蘭ちゃんはもう少し見てていいから。迎えを呼ぼうか?」
「ううん、大丈夫。今日はありがとう」
「また連絡する」


 そう言って足速に去っていってしまった。
 どうやらかなり急いでいるようだ。

 私はその後ろ姿を見送り、呆気なく初デートは終わってしまった。

 絶対好きにさせてみせる、なんて言った割にあっさり終わってしまったな。
 ううん、最初から仕事優先だと言われていたし、あの様子を見ると何か事件があったみたいだから仕方ない。


「また連絡するってことは、また会ってくれるってことなのかな……」


 一人になると急に不安な気持ちが押し寄せる。
 これで終わりなんてやだ。


「……メッセージだけでも送っとこ」


《今日は忙しいのにありがとうございました。よかったらまたご飯行きたいです》


 そこまで文字を打ち、デリートして打ち直した。


《今日は忙しいのにありがとうございました。すごく楽しかったです。また会いたいです》


「……いや、直球すぎる?」


 打った文章をまた消し、また打ち直す。


《今日でもっと信士さんのこと好きになりました》


 いやいや、重いって思われそう!

 何度も文章を打ったり消したりを繰り返す。
 いえないメッセージがどんどん下書きに溜まっていく。

 結局私はどのメッセージも送信ボタンを押せなかった。


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