この恋を運命にするために


 漆原さんの話は寝耳に水だ。
 あの親父め、余計なことしやがって。


「彼女すら面倒だと思ってるのに見合いなんて更に面倒なこと、するはずないでしょう」
「お前がそんなだから局長が心配するんだろ? 未来の警視総監」
「それ、やめてください」


 いずれそうなる心づもりはあるが、周りに囃されるように言われると良い気分はしない。


「見合いが嫌なら彼女つくった方がいいんじゃないッスか? 合コンしましょうよ〜」


 尚もしつこい栗田のことは無視した。
 とはいえ、父が見合いをさせようとしているのは恐らく本当なのだろう。

 まだ二十四だが、本家の跡取りである俺に早く身を固めて欲しいと思っているに違いない。
 今すぐとはいかなくても相手を見繕っている段階かもしれない。

 史上最高にめんどくさいと思っていた時、出会ったのが蘭さんだった。


「私と結婚してください」


 女性に告白されたことはあれど、初対面でプロポーズされたことは初めてだったので面食らった。

 しかも千寿流華道家元の娘。
 良いところのお嬢さんがなんで俺なんかを……。

 そう思ったので彼女の目的は何なのだろうと考えた。
 次期家元はあの春海グループの総帥令嬢と結婚したらしい。

 高級旅館を全国にいくつも持つ春海グループなら、華道の千寿とはビジネスとしても相性が良い。
 調べたところによると、ほぼ政略結婚だったことは間違いない。

 そうなれば娘も然るべき家に嫁がせたいはずだけど、だからといって満咲(うち)を選ぶか――?


< 25 / 65 >

この作品をシェア

pagetop