この恋を運命にするために


 蘭さん自身が結婚を望んだとすれば、まあわからなくもない。
 俺の家柄と財産目当てで近づいてきた女は何人かいたし。


「蘭さんはそういうタイプには見えないけどな……」


 そうはいっても、人は見かけによらないものだけど。


「信士さん、あの千寿流のお嬢さんと付き合うんですか?」


 ある日の喫煙室、唐突に栗田に聞かれた。
 あの事件の時、栗田もいたから俺が蘭さんにプロポーズされたことを知っている。


「さあな」
「付き合わないって選択肢あるんスか!? あんな美人と!」


 確かに彼女は美人だ。
 黒髪のショートカットがよく似合っているし、流石は華道家ともいうべきか彼女自身にも華がある。

 快活そうな性格だし、男にモテそうだ。
 だから尚更なんで初対面の俺にいきなりプロポーズしてくれたのか、不思議で仕方ない。


「見合いする気がないならその子と結婚すればいいじゃないか」
「漆原さん……」
「千寿流のお嬢さんなら局長も気に入るんじゃないか?」
「おい栗田、漆原さんに話したな?」
「いいじゃないっすか〜」


 ったく、このおしゃべりめ。


「……漆原さんはなんで奥さんと結婚したんですか?」
「えっ」
「あ、俺も気になります!」


 さりげなく話題を漆原さんに持っていくと、まんまと栗田も乗っかってくる。
 漆原さんはあからさまに渋い顔をしていた。


「えーー……」
「確か奥さん、看護師でしたよね」
「ああ、俺が警視庁に異動になったのがきっかけだな。東京までついてきてくれるかって聞いたらわかったって」


< 26 / 65 >

この作品をシェア

pagetop