この恋を運命にするために
蘭さん自身が結婚を望んだとすれば、まあわからなくもない。
俺の家柄と財産目当てで近づいてきた女は何人かいたし。
「蘭さんはそういうタイプには見えないけどな……」
そうはいっても、人は見かけによらないものだけど。
「信士さん、あの千寿流のお嬢さんと付き合うんですか?」
ある日の喫煙室、唐突に栗田に聞かれた。
あの事件の時、栗田もいたから俺が蘭さんにプロポーズされたことを知っている。
「さあな」
「付き合わないって選択肢あるんスか!? あんな美人と!」
確かに彼女は美人だ。
黒髪のショートカットがよく似合っているし、流石は華道家ともいうべきか彼女自身にも華がある。
快活そうな性格だし、男にモテそうだ。
だから尚更なんで初対面の俺にいきなりプロポーズしてくれたのか、不思議で仕方ない。
「見合いする気がないならその子と結婚すればいいじゃないか」
「漆原さん……」
「千寿流のお嬢さんなら局長も気に入るんじゃないか?」
「おい栗田、漆原さんに話したな?」
「いいじゃないっすか〜」
ったく、このおしゃべりめ。
「……漆原さんはなんで奥さんと結婚したんですか?」
「えっ」
「あ、俺も気になります!」
さりげなく話題を漆原さんに持っていくと、まんまと栗田も乗っかってくる。
漆原さんはあからさまに渋い顔をしていた。
「えーー……」
「確か奥さん、看護師でしたよね」
「ああ、俺が警視庁に異動になったのがきっかけだな。東京までついてきてくれるかって聞いたらわかったって」