この恋を運命にするために
* * *
「私、結婚したい人ができたの」
その日の夕食を囲む時、私は両親にそういった。
父は驚いて目を丸くし、母は少し嬉しそうに頬を染めた。
「結婚だと?」
「まあ、蘭ちゃんにもそんな人が!」
「誰なんだ?」
父はじろりと査定する視線を送る。
兄の結婚相手を決めたのも父だ、千寿に相応しい男なのかと言いたいのだろう。
「花瓶の盗難騒動で私を助けてくれた刑事さんよ」
「なに、刑事だとっ」
気に入らなかったのか、父の目が三角になる。
「警察官なんてダメだ」
「どうして? 立派な方よ。誰も私を信じてくれない中、私の無実を証明してくれた優秀な刑事さんなんだから」
「刑事の妻なんてお前が苦労するだけだ」
ふんっと鼻息を荒くする父とは対象的に母は遠慮がちに訊ねる。
「蘭ちゃん、その刑事さんって今日初めてお会いした方じゃないの?」
「そうよ」
「初対面の方といきなり結婚はどうなのかしら?」
母は職業よりも初対面というのが気がかりらしい。
「大丈夫、これから彼のことをもっと知っていくつもりだから。でも私の直感は本物よ」
「そうかしらねぇ……」
「全く、お前のいつも後先考えずに突っ走るのは悪い癖だぞ。とにかく、結婚なんてダメだ」
「お父さんが決めることじゃないでしょ! 私はあの人が――満咲信士さんがいいの!」
それを聞くと、父は訝しげに聞き返す。
「満咲……だと?」
「ええ、お名刺をいただいたの。お若いのにもう警部なのよ」
私は信士さんの名刺を差し出す。
それを見た父の表情がみるみるうちに変わっていった。