この恋を運命にするために


「おま……っ、あの満咲家のご子息じゃないか!」


 父にしては珍しく大声だった。
 想定外の父の反応に思わず何度も瞬きしてしまう。


「知ってるの?」
「知ってるも何も! 警察界隈で絶大な権力を持つ一族だぞ。警察庁の満咲刑事局長の息子さんだ」
「えっ」


 既に警部なんて相当優秀な方だと思ったけど、刑事局長の息子さんだったなんて。


「まさかあの満咲なんて……お前は何を考えているんだ」
「なんで? 何が問題なの?」
「問題しかない! うちとは比べ物にならないくらいの家系だぞ」
「蘭ちゃん、私から説明するわね」


 母曰く、満咲家は旧華族の末裔であり一言で言ってしまえばやんごとない家柄なのだそうだ。
 代々警察官の一族だが政界にも顔が利き、噂では国内の裏組織にも精通しているらしい。

 家柄も良ければ権力も絶大。簡単に言うと、絶対に敵に回してはいけない一族なのだという。


「悪いことは言わん、諦めろ」


 父はきっぱりといった。


「お前では無理な相手だ」
「なんで無理なのよ!」
「とにかくその男には二度と近づくな!」
「なんでお父さんがそんなこと決めるの!」


 久々に父と大喧嘩してしまった。
 華道家としては尊敬している父だけど、いつも体裁を気にするし千寿流にとって利益があるかどうかが最優先事項だ。

 界隈で大きな権力を持つ満咲に関わり、面倒ごとに巻き込まれるのが嫌なのだろう。


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