この恋を運命にするために


 信士くんとの“初めて”なんだもの、ちゃんとしたいという乙女心がある。
 このまま流されるのは嫌! というか無理!


「……っ」


 じっと目を見て訴えると、信士くんはパッと離して解放してくれた。


「わかった」
「あ、ありがとう」
「いや、ごめん。自分の余裕のなさに驚いてる……」
「えっ」


 その言葉には私が驚く番だ。思わず気の抜けた声を出してしまった。


「余裕あるようにしか見えないんだけど」
「顔に出ないだけ」
「そう、なんだ……」
「全部顔に出る蘭ちゃんと違ってね」
「! うるさいっ」
「ははっ」


 信士くんは楽しそうに笑いながら、私の頭を撫でた。まるで子どもをあやすみたいに。


「先にシャワーどうぞ。一回一人になりたいだろうし、ゆっくりしておいで」
「うう……」
「俺はあっち側でのんびり待ってるから」
「……やっぱりずるい」


 余裕がないって言うけど、全然そんな風に思えないんだもの。
 私ばっかりいっぱいいっぱいな気がする。


「あのね、これでも本当に余裕ないから」
「っ!」
「――戻ってきたら、覚悟しといて」
「ふぇ……」


 ああ、どうしよう。私、どうなっちゃうのだろう。
 恥ずかしさのあまり逃げるようにバスルームに駆け込み、一人で悶々としてしまう。

 今更だけど、この人が私の旦那様になるなんて――。

 今日だけで信士くんの知らない一面をたくさん知れた。
 多分まだまだ知らない彼の顔があるのだと思う。


「……心臓、壊れないかな?」


 一つずつ知らないあなたを知る度に好きが溢れて、もっとあなたでいっぱいになる。
 そしてこれからもっと好きになるんだろうな――。

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