皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「皇太子殿下!」

思わず叫んでしまった。まさか――今のすべてをご覧になっていたのだろうか。

心臓が跳ね上がる。私は駆け寄り、必死に言葉を探す。

「皇太子殿下、今のは……」

震える声で説明しようとしたその時、セドの唇から洩れたのは、どこか寂しげな響きだった。

「二人は……恋人なのか。」

その言葉に、クラリッサ姫とエドガーはハッとしたように目を伏せる。

沈黙こそが答えを示していた。

「恋人じゃなかったら……あんなふうにキスはしないだろう。」

セドの声は低く、静かだった。

怒りではなく、深い哀しみが滲んでいる。――殿下は見てしまったのだ。あの禁断の口づけを。

「殿下、間違いです!」

私は声を張り上げた。全身が震えていた。

どうにかして否定しなければ。

セドが心を痛めるのを、ただ見ているなんてできない。

けれどクラリッサ姫は唇を噛みしめ、エドガーもまた拳を固く握りしめていた。

その沈黙が、私の必死の言葉をむなしく打ち消していく。
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