皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
馬を並べて走りながら、私は横にいる殿下へと声をかけ続けた。

「殿下、風が気持ちいいですね!」

「ほら、鳥が飛んでいきました!」

必死に話題を探し、笑顔を作る。

沈んでいた彼に、少しでも外の空気を楽しんでほしかった。

セドは最初、無言で微笑んでいただけ。

けれどもやがて、ちらりと私に視線を向ける。

その眼差しが少し和らいだような気がして、胸が温かくなる。

「エリナ……お前は変わらないな。」

風に揺れる髪の向こうから、彼がぽつりと呟いた。

「殿下をお元気にするのが、私の務めですから!」

そう笑うと、セドの口元にわずかな微笑が浮かぶ。

久しく見ていなかったその表情に、心臓が跳ねた。――ああ、やっと笑ってくれた。

私は手綱を握りしめながら、何度でも彼に笑ってほしいと強く願った。

初恋の人の笑顔を守れるのなら、どんな努力も惜しくはない。
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