皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
そして、玉座の間には祝福の声がいっせいに上がった。

「皇太子殿下!」

「クラリッサ姫!」

私は胸の奥の痛みを必死に押し隠しながら、一生懸命に拍手を送った。

どうかこの結婚が上手くいきますように――そう祈りながら。

セドから婚約の話を聞いたのは、ほんの一か月前のことだ。

「とても美しい姫君なんだ。」

その時の彼の声音は穏やかで、どこか夢を見ているようだった。

私はてっきり一目惚れなのだと思った。

皇太子殿下付の侍女になって以来、彼が女性を語るのを聞いたのは初めてだった。

誠実で、国のために生きることしか考えていないような殿下が、誰かを「美しい」と口にする。

その事実に胸がざわついた。

けれど、同時に安心もしたのだ。

これで殿下が幸せになるのなら、私の想いなど影に隠れて構わない。

初恋の人が他の誰かを見つめる姿を、私はただ侍女として見守る。

――それが自分に許された唯一の役割だと、その時は信じていた。
< 2 / 151 >

この作品をシェア

pagetop