皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
その証拠に、セドはずっとクラリッサ姫を見つめていた。

まるで時が止まったかのように、その瞳には彼女しか映っていない。

姫君もまた、恥じらうように微笑みながら視線を返す。

二人の間に流れる空気はあまりにも穏やかで、誰もが「この結婚は必ずうまくいく」と信じたに違いない。

「幸せそうだね。」

横に立つ近衛騎士アルキメデスが小さく笑みを漏らし、私に囁いた。

「ええ。……よかった。」

そう答えた私の声は、ほんの少し震えていたかもしれない。

けれどアルキメデスは気づかなかっただろう。

彼もまた、皇太子殿下の親友の一人として、その幸せを心から願っているはずだから。

拍手の音が鳴りやまぬ大広間で、私は自分の鼓動が苦しいほどに早く打つのを感じていた。

初恋の人が、別の女性と幸せそうに微笑み合っている――その現実を、笑顔の仮面の裏で噛みしめていた。
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