皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
私がセドの腕からそっと離れようとした、その瞬間だった。

強く引き寄せられ、動きを封じられる。

「セド?」

驚いて顔を上げると、彼の瞳が真剣に揺れていた。

「放さない、エリナ。」

耳元で囁かれる低い声に、全身が震える。

雨音すらかき消されるほど近くで響いたその言葉に、胸が熱くなる。

ああ、許されるのなら……。私だって放したくない。

殿下の隣にいたい。そう伝えたいのに、声にはできない。

だから私は、せめてできることをした。

そっと両腕を伸ばし、彼の背に触れる。そして、強く抱き返した。

「エリナ……」

切なげな声が私の名を呼ぶ。

その響きが、心の奥深くに沁みていく。

立場も理性も関係なく、ただ互いの温もりを求め合うこの瞬間だけは、夢のように甘くて――痛いほど幸せだった。
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