皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「ううっ……」

気づけば、頬を伝って涙がこぼれていた。

止めようとしても溢れてくる。

――そうよ。結婚する相手くらい、愛している人を選びたい。

その想いは、身分も立場も関係なく、誰にだって平等なはずなのに。

どうして殿下だけが、義務と責任に縛られなければならないの。

「殿下……」

震える声で名を呼んだ瞬間だった。

セドは静かに歩み寄り、そっと私を抱き寄せた。

広い胸に包まれると、彼の体温とともに甘い香りがふわっと漂ってくる。

幼い頃から変わらない、安心と憧れを同時に呼び起こす匂い。

「泣かなくていい。」

耳元で低く囁かれ、その優しさにまた涙が溢れる。

私はただ、その胸に顔を埋めた。

初恋の人の腕の中で泣けるなんて――許されないはずなのに、どうしても抗えなかった。
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