皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
私は一人、廊下に立ち尽くしていた。冷たい石畳の上で足がすくみ、前へ進めない。

――一介の侍女であっても、皇太子殿下の夜伽は断れない。

それは宮廷で仕える者にとって絶対の掟。

けれど、私は……一度きりの欲情で終わりたくない。

想いを告げぬまま抱かれるのは、あまりにも苦しい。

そんな時だった。肩に軽い衝撃を感じ、はっとして振り返る。

そこに立っていたのはアルキメデスだった。

「今夜、行くの?」

静かな問いかけに、私はうんとも言えず、ただ唇を噛んだ。

「初恋の人に誘われて、嬉しくないの?」

彼の眼差しは真剣で、胸の奥を見透かしてくるようだった。

私は言葉を失い、ただ黙って立ち尽くすしかなかった。

しばしの沈黙の後、アルキメデスは小さく息を吐き、呟く。

「……俺が断ろうか。」

その一言に心臓が大きく揺れる。

彼が本気でそう言っているのが伝わり、返す言葉を失った。
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