皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました

そしてある日のこと。用事で図書室に入った時だった。

「エリナ。」

ふいに名前を呼ばれ、私はびくりと肩を震わせて振り向いた。

そこに立っていたのは、懐かしい顔――。

「ルーファス公爵閣下！」

思わず慌ててスカートの裾をつまみ、一礼をした。

ルーファス公爵閣下。貧しい家に生まれた私を幼い頃から気にかけ、ついには引き取って下さった恩人。

そして後に、皇太子付きの侍女として推薦してくださった方でもある。

今の私がここにいるのは、間違いなく閣下のおかげだ。

「お元気そうで、何よりです。」

胸に込み上げる想いを抑えながら挨拶すると、公爵は穏やかな笑みを浮かべた。

「エリナもね。」

その物腰は昔と変わらず柔らかく、声に触れるだけで安心できる。

図書室の静けさの中で、再び恩人と相対する現実が、不思議な懐かしさを呼び起こした。