皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
この王宮に来たばかりの頃――。

私は「貧乏な家の子供」として、侍女仲間から冷たい扱いを受けていた。

「はぁ……あーあ、近くに寄らないで。貧乏が移るわ。」

吐き捨てるような言葉に、胸が締め付けられた。

周囲の侍女の多くは男爵家や伯爵家の令嬢たち。

良い家に嫁ぐため、王宮での奉公を「箔」にしていたのだ。

仕えること自体が目的ではなく、未来の自分の価値を高めるための手段。

そして中には――まだ幼かったセドリック殿下に気に入られようと、親に言いつけられて仕向けられている公爵令嬢の姿さえあった。

笑顔を作り、仕草を整え、殿下の目に留まることを狙う少女たち。

そんな中で私は異例だった。

貧しい家の娘であり、嫁ぐ未来など約束されていない。

唯一与えられた道は「働く」こと。

ただ殿下に誠心誠意お仕えするしか、ここに居場所を見つける術はなかったのだ。

孤独に耐えながら、必死で役目を果たそうとする毎日。あの頃の想い出が、今も胸を切なく揺さぶる。
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