皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
あの日。私は人目のない中庭で、ひとり膝を抱えて泣いていた。

「貧乏娘のくせに、どうして殿下のおそばに仕えられるのかしら。」

「恥ずかしいわよね、きっとすぐ追い出されるわ。」

そんな声が耳に残り、胸をえぐった。耐えきれず涙をこぼしていると、背後から影が差した。

「誰がそんなことを言ったんだ。」

顔を上げると、まだ幼いセドリック殿下が立っていた。

小さな手には木剣を握りしめ、怒ったように眉をひそめている。

「泣くな、エリナ。」

真っ直ぐにそう言って、私の前に立ちはだかった。

「エリナを悪く言うやつは、俺が許さない。エリナは俺の大切な友達だ。」

その言葉に、胸の奥が熱くなった。

初めて誰かに守られた。初めて「居ていい」と言ってもらえた。

涙でぐしゃぐしゃの顔で頷いたあの日――それが、私がセドを初恋の人として想い続けるきっかけになったのだ。
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