皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「そうだよ。エリナ、上手だよ。」

アルキメデスの声に、私は少しだけ肩の力を抜いた。

彼の手に導かれるまま、ぎこちなくも舞踏の輪に加わる。

婚約発表の祝宴に浮かされた空気の中、使用人たちまでが音楽に合わせて楽しげに踊っていた。

「エリナ、俺を見て。」

低く囁かれた言葉に、思わず顔を上げる。

真っ直ぐに見つめてくるアルキメデスの瞳とぶつかり、胸がざわつく。

「そうだよ。皇太子殿下を忘れて、俺を見るんだ。」

その一言に心臓が跳ね、私は足を止めてしまった。

舞踏の輪が崩れ、アルキメデスが驚いたように名を呼ぶ。

「エリナ……」

私は小さく首を振り、苦しげに言葉を吐き出した。

「すまない、アルキメデス。……そういう目で、あなたを見ることはできない。」

彼の瞳に、一瞬だけ影が落ちる。

友人として過ごしてきた時間の重みを思えば心が痛むけれど、私の心はただひとり――初恋の人、セドリック殿下に向いているのだ。
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