皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「そうだ。少しだけお待ちください。今、ホットミルクを用意しますね。」

そう告げると、セドは驚いたように目を瞬かせたが、何も言わずに頷いた。

私は裾をたくし上げて急ぎ足で部屋を出る。

眠れない殿下を、どうにかして癒してあげたい。

私自身、幼い頃から夜中に不安で眠れない時、母が作ってくれたホットミルクを飲むと、安心して眠れたのを覚えている。

(殿下にも、あの安らぎを――)

キッチンへ向かい、鍋に牛乳を注ぎ入れる。

弱火で温めながら、ほんの少し砂糖を加えた。

甘い香りがふわりと立ち上り、胸の奥まで温かさが広がっていく。

「できた……。」

小さな呟きと共に、白い湯気を立てるミルクをカップに注ぎ、両手で大事に抱える。

そして再び殿下の部屋へ。

扉の前に立つと、胸が高鳴った。

こんなささやかな一杯が、殿下の心を少しでも軽くできるだろうか――そう祈りながら、私は静かに扉を叩いた。
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