皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
ホットミルクを飲み干したセドからカップを受け取ると、私はそっと微笑んだ。

「殿下、もうお休みください。」

そう促して布団を整えると、セドは観念したように肩を落とし、ベッドに横たわった。

まだ眠気は訪れていないのか、瞳だけがこちらを追ってくる。

「殿下が眠るまで……お傍におりますね。」

私はそう囁き、ゆっくりと彼の髪へ指先を伸ばした。

サラサラとした金の髪が指の間をすり抜け、かすかな香りがふわりと漂う。

撫でるたびに、彼の表情が和らいでいくのが分かった。

「……エリナ。」

低く名を呼ばれると、胸が熱くなる。

私は空いた手にカップを持ったまま立ち上がり、テーブルにそっと置いた。

そして気づけば――セドの寝台の端に腰を下ろしていた。

近づきすぎてはいけないと分かっているのに、その距離を保てる強さはもう残っていなかった。
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