皇太子に溺愛されすぎて、侍女から公爵令嬢になりました
「クラリッサ姫……」

声をかけようとした瞬間、私は足を止めた。

姫のそばに、もう一人の人影があったのだ。

月明かりに浮かび上がった逞しい背は、クラリッサ姫の祖国から同行している騎士団長――エドガーだった。

(なんだ、付き従う家臣と一緒か……)

そう思った途端、胸の緊張が少しほどける。

王国の大切な姫君なのだから、護衛が寄り添うのも当然だ。

だが、その安堵はすぐに打ち砕かれた。

「エドガー……私はもう、耐えられぬ。」

クラリッサ姫は震える声でそう呟くと、エドガーの胸に縋りついた。

「えっ……」

思わず声が漏れる。

次の瞬間、エドガーもまた姫を抱きしめ返していた。

「クラリッサ……俺もだ。もう、これ以上隠しきれぬ。」

月明かりの中、二人は互いの想いを吐露するように身を寄せ合う。

その光景に、私は全身が凍りついた。

婚約を結んだはずの姫と、他国の騎士団長が抱き合っている――どうして、こんなことに。
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