「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「珠子」
と兄に呼びかけられ、
「はい」
と長屋に囲まれた夕暮れの道を見ていた珠子は彼に向き直る。
「……岩崎と行っていいぞ、博覧会」
「えっ?」
「なんだかんだで、あいつは、いい奴だ。
そんなあいつがお前を大切にしてくれていることだけは、間違いないから」
「お兄様……」
「俺に黙っていくという選択肢がないのもあいつらしい」
と高平は笑っている。
「着いたら、ちゃんと連絡しろよ」
これは、うちの番号、と高平は筆で書いた紙を渡してくる。
お守りにしろ、と言う。
「俺の言いたいのはそれだけだ」
「お兄様、ありがとうございます。
あの――
私からも一言いいですか?」
「なんだ?」