「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
 



「ああ、爪か」

 珠子に爪を磨いてもらっていたのだと聞いた晃太郎は、ひょいと珠子の手をとった。

「なるほど。
 綺麗に……」
と言いかけたあとで、赤くなって手を離す。

 無意識のうちにつかんだが。

 つかんだあとで恥ずかしくなったようだ。

 珠子から顔をそらし、晃太郎は言う。

「そうだ。
 博覧会に行く予定を立てよう。

 ようやく、高平のお許しが出たからな。

 ……なんだか、あいつがお前の親みたいだな」
と渋い顔で言う晃太郎に、珠子は笑う。

「まあ、ほんとうは――」
と言いかけた晃太郎だったが、続きの言葉を飲み込んだ。

 おそらくだが。

 ほんとうは、高平ではなく、池田に許可をもらうべきなのでは、と言いかけたのだろう。

 だが、今、池田の名前を出すのもと思い、黙ったに違いない。
< 110 / 256 >

この作品をシェア

pagetop