「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「ああ、爪か」
珠子に爪を磨いてもらっていたのだと聞いた晃太郎は、ひょいと珠子の手をとった。
「なるほど。
綺麗に……」
と言いかけたあとで、赤くなって手を離す。
無意識のうちにつかんだが。
つかんだあとで恥ずかしくなったようだ。
珠子から顔をそらし、晃太郎は言う。
「そうだ。
博覧会に行く予定を立てよう。
ようやく、高平のお許しが出たからな。
……なんだか、あいつがお前の親みたいだな」
と渋い顔で言う晃太郎に、珠子は笑う。
「まあ、ほんとうは――」
と言いかけた晃太郎だったが、続きの言葉を飲み込んだ。
おそらくだが。
ほんとうは、高平ではなく、池田に許可をもらうべきなのでは、と言いかけたのだろう。
だが、今、池田の名前を出すのもと思い、黙ったに違いない。