「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」

晃太郎、散髪に行く

 

「今日はちょっと散髪に行って帰る。
 ……どうした?」

「いえ、散髪屋を見るたびに、美味しそうだなと思ってしまいまして。
 お店の前にある、あの赤白青のねじねじ」
と珠子は言う。

「ああ、アルヘイ棒か。
 確かに。
 飴ん棒と呼ぶ人もいるな」

 有平糖という室町時代に日本に来た南蛮菓子と似ているので、アルヘイ棒と呼ばれるようになったらしい。

「不思議なものですわね。
 晃太郎様も少し前に生まれてらしたら、散髪屋に行くこともなく。

 (まげ)を結ったりしていたのですわよね」

 珠子は想像してみた。

 髷を結って着物姿で仕事に行く晃太郎を――。

「似合いますわっ」
「えっ?」

「いっそ、見てみたいですわっ」

 妻の妄想に気づかぬ晃太郎に、珠子はそう熱く語った。



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