「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「いらっしゃいませー」
ある日の昼。
珠子が店の入り口を開ける音に顔を上げると、派手な柄の着物と帯を大胆に合わせた和装の若い娘が立っていた。
「あ、えーと……
上田様」
「善子でいいわ」
畳んだ日傘を手に言う善子に、なんとなく、天気予報の晴れの絵を思い出す。
善子はきょろきょろと店の中を見回すと、
「カビ臭い店ね~」
と言いながら入ってきた。
「えっ?
そうですかっ?
もうちょっと換気した方がいいですかね?」
と珠子は立ち上がりかけたが、善子は、
「そうじゃないわよ」
と言う。
善子は清潔かどうか確かめたあとで、帳場近くの木の長椅子に座った。
「若い娘が働く場所にしてはカビ臭いところねって言ったのよ、『珠子様』」
お友だちにあなたを知っている人がいたのよ、と言う。