「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」
「まあ、そんな感じの人なんで。

 今の母がやさしく、耐え切れなくなったらいつでもここに電話していいのよ、とあの紙を書いてくれたとき。

 俺はこの人が俺の母親になってくれてよかったって心底思ったんだ」

「お兄様、ほんとうによかったですわね」
と微笑んだあとで、珠子は訊いた。

「ところで、お兄様。
 何故、そこから入られませんの?」

 高平は店の前の道に立ったままだった。

 珠子も晃太郎も店の中にいるのに――。

「……父親に、もう三条の家には近づくなといわれているからだ。

 俺はたまたまここを通りかかって、たまたまこの辺りで足を止めただけの人だ」

「往生際悪いですわね」
と言いながらも、笑ってしまった。
 


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